フィレンツェの恋人~L'amore vero~
「ねえ、ハル」


と軽く叩いたハルの背中は、とてもしなやかなラインをしていた。


「どうかした?」


「いえ、あのね」


どうしたも何も……。


今、私はおそらく、頬を引きつらせているのだと思う。


「これ、ピーマンじゃないのよ」


「……えっ」


ぎょっとした顔で、ハルが固まった。


「ハル」


私は持っていたトマトを、ハルの顔の前に突き出した。


「この赤い野菜は何か、分かる?」


「ぼくを、バカにしてるんだ」


ハルがムッとして、私を睨む。


「トマト、だろ。知ってるよ」


「じゃあ、これは?」


棚に積み上げられたそれを指さしてみる。


ハルはますますムッとして答えた。


「レタス!」


ああ、声まで荒々しい。


「なら、これ」


「キャベツ!」


「これ」


「オニオン!」


いい加減にして、とハルはむっすりと不機嫌になってしまった。


「酷いよ、東子さん」


「ごめんなさい」


でも、これが最後、と、


「これは? この野菜の名前をもう一度言ってみて」


私は黄色のパプリカを指さした。
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