恋のソリューション
あぁ、相変わらずいい声……。
ルックスもだけど、この声が好きなんだよなぁ。
耳から入って、直接、頭の芯をとろかすような、フェロモンたっぷりの、低くセクシーな声。
と言っても、同期の杏奈(あんな)には、同意を得られなかったんだけど。
でもいいのよ、これはあくまでも、私の好みなんだから。

「じゃぁ、詳しい話は、陣野から直接聞いてくれるか? 俺、これから、お客さんとこに行かなくちゃならないんだわ。陣野、あと頼むな? 阿久津ちゃん、なんかあったら、電話して」
「はい、わかりましたっ。いってらっしゃい!」

慌しくカバンをつかんで席を立った名護屋さんを見送り、指示を仰ぐべく、陣野さんを見上げると。
「じゃぁ、ちょっと説明するから……、あそこを使おう」
パーティションで区切られた窓際のミーティングスペースを指差され、私は「はい」とうなずいた。

窓から明るい陽の光が差し込むテーブル越しに、差し向かいで座る。
半ば閉ざされた空間でお互いに顔を見合わせると、陣野さんはクイッと唇の片端を持ち上げた。

「久しぶりだな」
「はい。ご無沙汰しています」

と、笑顔で返しはしたけれど。

陣野さんは、いつぶりのつもりで“久しぶり”って言ったんだろ?
一緒に仕事をするのでいえば、5年ぶりだ。
でも、顔を見かけたというレベルなら、せいぜい半月ぶりくらい。
10月初めに行われた下半期スタートの全社会議でも、そのあと、名護屋さん主催で行われたシステム開発グループ全員での飲み会の席でも、見かけてはいたから。

ただ、私の方は見ていたけれど、陣野さんは私に気づいていなかったっていう可能性はある。どっちの時も、遠くから見かけただけで、挨拶するチャンスはなかったから。
だとすれば、ここはやはり、5年ぶりの方の“久しぶり”なのかな?

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