初恋プーサン*甘いね、唇

ひと通り子供の名前を覚えている彼は、隅っこに座っているピンク色のワンピースを着た4歳の女の子を指名した。


彼女は、ヒグラシにもクマゼミにもならずに。


ひとり黙々とカーペットを爪で擦りながら、恥ずかしがる乙女のようにうつむいている。


「杏奈ちゃん」


近づいた彼は、顔を下からのぞきこんだ。


彼女は、顔を跳ねあげ、耳と頬を目にもとまらぬはやさで赤く染めあげ、二重の目で大きくまばたきをした。


誰がどう見ても「照れている」仕草と表情の変化。


アニメのようなバレバレ具合だった。


彼女も、彼に心を奪われているらしい。


「どれがいいと思う?」


本棚を指差して、優しい口調の彼。


「ええと……」


杏奈ちゃんは、本を選ぶなんて上の空といった感じで半ばボーッとしながら「これがいい」と1冊の本を指差した。


彼女にとっては、選ばせてもらえたことよりも、指名されたことのほうが大きな喜びだったらしい。


本を取り出そうとしている彼に気づかれないように後ろを向き、小さくガッツポーズをした。

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