初恋プーサン*甘いね、唇
「シーッ!静かにしようね」
彼は子供たちに向かって、人差し指を口に当てる仕草をしてみせる。
すると子供たちも真似をして、バケツリレーのように横の子に同じ仕草で「シーッ」とヒグラシのような声を出し合った。
一番端にいた男の子は、隣に誰もいないので、苦肉の策なのか彼に向かって人差し指を口に当てるものだから、私は美咲と笑い合った。
そんなこの日は、2歳から5歳までの、総勢8人が集まっていた。
保護者のお母さんたちは、子供たちのいるスペースから少し離れた一般書のコーナーの壁に沿って置かれた長椅子で、小さなトーンで世間話に花を咲かせていた。
子供の読書離れを抑止する目的はいいけれど、主婦にはどうやら効果がいまいちのようだ。
親がこれでは、子供に興味を持たせても焼け石に水だと思うのは、私だけだろうか。
「よし。今日はどのお話がいいかな?」
嬉々とする子供たちを沈静化させた彼は、本棚をしゃがんで眺めながら言った。
言葉を受けた子供たちは、一斉に、
「あれがいい、これがいい」
と今度はクマゼミのように声をあげ、また彼にシーッと注意された。
「いっぺんに言われても困るから。そうだな、今日は、杏奈ちゃんに決めてもらおうかな」