初恋プーサン*甘いね、唇

「どうして、ですか?」


いまいち事態が把握できずに、マスターに訊き返した。


「死ってものを想像できないってことは、それだけ好きだからだろう。語弊はあるが、どうでもいい相手なら、そんな感情は生まれてこない。たしかに、市村さんって人のことも好きになっているのかもしれないが、死後を想像できた。ってことは、少なくとも今、雛ちゃんが選ぶべき人は、ボランティアの彼ってことだよ」


それに、とマスターは付け加えた。


「雛ちゃんは、最初から気づいてたはずだよ。どっちのほうが尊いのか。どっちを選んだほうが、後悔しないのかね」


「…………」


マスターの言うことは、図星だった。


市村さんのことは、正直好きになりかけている。


安心感も優しさもある彼は、私にとってありがたい存在。


でも、恋愛しているっていう感じのドキドキ感がまったくないのも事実だった。


まだ会い始めて間もないこともあるかもしれないけど、一度目からああも安心しているのだから、二度目以降そうなるとは思えない。


だけど、司さんのことを想うと、身体にあらゆる変化が起こる。


良くも悪くもあちこちが苦しくなって、だけど愛しくて。


憂鬱になったり、土曜日が嫌になるのは、彼に会いたくないからじゃない。





彼に、どうしても嫌われたくないから――。

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