初恋プーサン*甘いね、唇
。・*○*
住所によると、図書館から徒歩5分ほどの場所だったので、比較的スムーズに見つけることができた。
少しずつ都会化が進むこの街でも、特に開発が進んでいる地域に建つ、新しいマンションが彼の住む場所らしい。
「ここの305号室。3階か」
入り口で呼び出しのボタンを押したけれど、彼は一向に出る気配がなかった。
どこかへ寄り道でもしているのだろうか。
どうしよう――。
「ここでしばらく待ってようかな」
そう思って、ひとまず外に出ようと自動ドアの前に立ったところで、携帯電話の着信音が鳴った。
バッグから取り出して液晶画面を見ると「図書館」と表示してある。
「はい。片瀬ですけど」
『雛子』
美咲の声だった。
「どうしたの?」
『落ち着いてきいてね。倒れないでよ?』
いつになく沈んだ口調に、得体の知れない不安がよぎり、心に注がれていく。
「何?」
『アンタが出た後に館長から、あたしが急いで切ったから言いそびれたって電話があって――』
なみなみになるが、表面張力でなんとか粘る。
「うん」
『彼……、ついさっきの便で、日本を発ったんだって』
粘りむなしく溢れ出した。