初恋プーサン*甘いね、唇


。・*○*


住所によると、図書館から徒歩5分ほどの場所だったので、比較的スムーズに見つけることができた。


少しずつ都会化が進むこの街でも、特に開発が進んでいる地域に建つ、新しいマンションが彼の住む場所らしい。


「ここの305号室。3階か」


入り口で呼び出しのボタンを押したけれど、彼は一向に出る気配がなかった。


どこかへ寄り道でもしているのだろうか。


どうしよう――。


「ここでしばらく待ってようかな」


そう思って、ひとまず外に出ようと自動ドアの前に立ったところで、携帯電話の着信音が鳴った。


バッグから取り出して液晶画面を見ると「図書館」と表示してある。


「はい。片瀬ですけど」


『雛子』


美咲の声だった。


「どうしたの?」


『落ち着いてきいてね。倒れないでよ?』


いつになく沈んだ口調に、得体の知れない不安がよぎり、心に注がれていく。


「何?」


『アンタが出た後に館長から、あたしが急いで切ったから言いそびれたって電話があって――』


なみなみになるが、表面張力でなんとか粘る。


「うん」





『彼……、ついさっきの便で、日本を発ったんだって』




粘りむなしく溢れ出した。



< 131 / 201 >

この作品をシェア

pagetop