初恋プーサン*甘いね、唇
。・*○*
「片瀬さん。今日は朗読会ね」
7月第2週の土曜日。
私より6つ年上のベテラン司書で、いつもグレーのスーツを着ている落ち着いた雰囲気の、浜名博美(はまなひろみ)さんが言った。
「はい」
「カウンター、二ノ宮さんとよろしくね」
「了解です」
「頑張ってね」
「……はい?」
首を傾げる私をよそに、
「じゃあよろしく」
と、博美さんはカウンターの裏にある事務所へ入っていった。
発注する書誌データの作成や、延滞利用者への督促など業務のためだ。
午後は、比較的カウンターが混む時間帯。
なので、私と同じ年の、長い黒髪と腫れぼったい……じゃなかった、厚めの唇がチャームポイントの二ノ宮美咲(にのみやみさき)が、カウンター業務にあたることになった。