トルコの蕾
「今日ですね、この店長のストーカーのお花」
絵美が思い出したように、注文書を確認しながら真希に言った。
「16時に総合病院の病室にお届けってなってますけど…、やっぱりあたしが行きましょうか?店長にもし何かあったらあたし…」
絵美は不安げな表情で、泣きそうになりながら言う。
「大丈夫、ストーカーなんていないわよ。それより絵美ちゃん、そのぶんのお見舞のお花お願いね」
「…わかりました…。もし何かあったら、絶対に連絡して下さいね!」
絵美はそう答えると、お見舞アレンジ用のカゴに淡い黄色のペーパーをセットした。
「お見舞なら、元気が出そうな色がいいですよね」
「そう、あと、赤は使っちゃダメよ。血を連想させるから。あ、あと菊もスプレーマムも使わないでね。お供えみたいになっちゃうから。匂いが強いからユリもカサブもダメ」
「大丈夫です。ちゃんと覚えてまーす」
絵美はにっこりと笑いながらそう言うと、注文書を見ながら花を選び始めた。
父親に会えるかもしれない。
そう思うと、嬉しさと同時に父親を憎む気持ちがふつふつと沸いてくる。
今さら会ったところで、彼は母親の人生を狂わせた人間でしかない。
もしも重い病気で入院しているのだとしても、そんなことは知ったことではない。
ただ、一度だけでいいから自分と血の繋がった父親の顔を見てみたい、そう思っていた。