トルコの蕾
エレベーターホールでもう一度、花と注文書の内容を確認する。
『真田店長に届けてもらいたいとのこと。』
わざわざ追記されたそれが何を意味するのかなど、気にするべきではない。
頼んだのは父親ではない、誰か別の人物なのだから。
エレベーターの扉が開き、車椅子のお婆さんと妊婦さんが降りて来る。
「綺麗なお花ですねぇ」と声を掛けられ軽く会釈をしてすれ違う。
7階のボタンを押して、ふと鏡に映る自分を見た。
どことなく母親に似ているけれど、見て解る程ではない筈だ。
父親はどんな顔をした男なのか、とんでもない不細工ではないということだけは、太一を見れば解る。
それもずいぶん皮肉なものだなと、真希は他人事のように思った。
これから会いに行く、誰より愛した男の父親は、自分を捨てた父親なのだから。