トルコの蕾
マンションの扉を静かに開けると、猛は赤ん坊を起こさないように細心の注意をはらいながら、寝室の麻里子に近づいた。
「…麻里子?」
小声で麻里子に呼びかける。慣れない育児で疲れきっているのだろう、麻里子は「ううん…」と小さく呟きながら目をこすった。
「あ、おかえりなさい、猛さん」
申し訳なさそうな表情で、麻里子がベッドから起き上がる。
「ごめんなさい、寝ちゃってた…」
「いいんだよ、そんなことより、今日は何の日か知ってる?」
猛は目の前の愛しい女性に優しく尋ねる。
「十一月…二十二日…?…ごめんなさい、わからないわ」
麻里子が言うと、猛は得意げに「いい夫婦の日、だって」と言いながら、右手で背中に隠していた花束を取り出した。
「わあ!すごくきれい!これどうしたの?!」
麻里子が驚いて猛に聞くと、猛はひざまづいて麻里子に花束を差し出した。
「俺からの、感謝の気持ち」
麻里子は今にも泣き出しそうな表情で花束を受け取り、猛の逞しく太い首めがけて思い切り抱きついた。
「猛さん、大好き!!!」