トルコの蕾
「はぁ、今年も終わっちゃいましたね…クリスマス」
ガラスごしに外を眺めながらポインセチアの鉢植えを片付けていた絵美が、去年もどこかで聞いたような台詞を呟いた。
「絵美ちゃん、まだ10時よ。あと二時間あるのよ?クリスマスは」
去年も確か同じようなことを言ったな、と思いながら真希は答える。壁に飾ったクリスマスのオーナメントをはずし、ゴールドクレストの電球を巻き取る。
高い位置に置いていた、黄金ヒバのガラスベースを目立たない位置に下ろし、雲竜柳や金竹を使ったアレンジメントを白い陶器の壷に生けていく。
「絵美ちゃんは、今晩は彼とクリスマス?」
化粧もとれてほとんどすっぴん状態の真希が絵美に聞く。ここのところめっきり綺麗になった絵美の恋の行く末が、真希は気になって仕方がない。
「はい、彼もお店がクリスマスで忙しいので…たぶんクリスマスが終わってからのパーティーになると思いますけど」
そう答えた絵美はどこか嬉しそうで、真希もつられてなぜだか嬉しい気分になる。
「店長は?クリスマスは誰と過ごすんですか?」
絵美にそう尋ねられ、真希はふふふと笑った。
「あたし?あたしは…家でひとり寂しくシャンパンでも飲むかな」
去年に比べて格段に片付けのスピードが上がっているのは、絵美に明日のぶんのアレンジやブーケの見本の作り変えを任せられるようになったからだ。
「今年はクリスマスのあいだに帰れるかもね。さ、あとちょっとがんばろ!」
真希はそう言って腕をまくると、猛スピードで後片付けを進めた。
窓の外は雪が降り出している。
「今年はホワイトクリスマスかあ…」
絵美がぼんやり呟いた。