みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
もはや嫌味にしか聞こえない発言に、庶民代表で悪態をついてやりたい気分だ。
「というと?」と、言葉少なく返して自身を諌めた。
「――朱祢ちゃんが叶をどう思ってるのか」
ここでついに深層に迫るかのような声色に、思わず息を呑んだ。
「……ありきたりですが、上司として尊敬して」
「それなら、叶が執着するのはなぜだと思う?」
再びここで尋ねてくるあたり、良くない方へ話が進んでいると感じた。
だが、押し黙るなんて私らしくもない。逃げても変わらないと、口角を上げてみせた。
「僭越ながら、秘書としてボスの不利益になる発言は差し控えたく存じます」
「俺は朱祢ちゃんと今、友だちとして話してるんだけどね」
「では真意の見えない友人とは、本音でお話しできかねます」
「――言うね」
「ありがとうございます」
少しも怯むことなく、バッグから取り出したメガネをかけた。……僅かでも力が欲しいと。
「じゃあ、その若さで社長秘書に選ばれた理由は何だと思う?」
あの手この手とは、まさにこのこと。レンズ越しに見る彼の表情には、一切の濁りもない。
「優秀な第一秘書がおりますので、私はあくまで第一秘書のサポートです。
私は出来損ないですが、変わり種のおもちゃとしては一興あるかと存じます。
では、里村社長はどう感じられますか?」
肯定文で返せば、また詰問が待っている。となれば、疑問符で返すのが正しい。
「ハハッ、やっぱり朱祢ちゃんは上手いなぁ。頭の回転がすこぶる速い。ホントにウチに来ない?」
よく笑う人と言うべきだが、嘘っぱちの笑みばかり。……ある種、誰かさんと同類だ。
「勿体ないお言葉、ありがとうございます」
「でも、化かし合いをする君らにはノーコメントにさせて貰おうかな。
……身代わりにするとは、アイツも残酷なことするよね」
私を試すかのような言葉には、つい苛立ちから眉根が寄ってしまう。
「フッ、ここで顔に出すのは早いんじゃない?
そこの桔梗の花みたいに、凛としてなきゃね。――朱祢ちゃんらしくもない」
「っ、」
鋭さのある切れ長の目が、そう言って隅にディスプレイされた花瓶を一瞥した。
そして再び、”逃げられないよ?”と強い目を向けられる。……力尽くではない、精神的な追い込みもまたひどく堪えるものだ。