みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
暫くしてようやく運ばれてきたデザートのマンゴープリンを食べ終え、私はそそくさと席を立ち上がった。
「送ってくよ」と言う里村氏の誘いは、丁重にお断りした。ここで啖呵を切って出て行くのは、品がないと思ったがゆえ。
しかし、あれほど人に恐怖心を与えておきながら、平然とするその気遣いの無さには驚嘆ものだった。
そんな嘘つき男の温情に乗る筈もなく、私は中華料理店をひとりであとにする。
無論、里村社長のオゴりという名のタダ食いだ。
今日は特に奢られるのも癪だが、脅迫紛いを受けた拘束料金としては安いと思う。
絶品料理に罪はないけど、このホテルに二度と用はない。――つーか、誰が来てやるか!
もちろん彼には見送りも拒否したので、エレベーターにはひとり乗り込んだ。
動き出した機内でミラーを見れば、ひどく疲れを滲ませた自身の顔に苦笑する。
秘書の間宮であれば笑えるから大丈夫だ、と心に何度も言い聞かせていた……。
ドアマンのエスコートで重厚なガラスドアを通過した瞬間、優しい夜風が肌を撫でる。
隅で立ち止まって腕時計を見れば、時刻は21時30分を過ぎたところ。食事会としては健全すぎる時間帯だ。
ヒール音を立てて歩き始めた刹那、ホテル正面脇に横づけされた一台の高級車が目に留まる。
それは限定らしい、黒のフェラーリだ。――何も気づかないフリをして、華麗なるシカトをしよう。
「お帰り。“2人でご飯”はどうだった?」