みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
私は花束を抱えたまま、空きの花瓶がある秘書室内の給湯室へと向かった。
“先日のお礼に受け取って下さい”
花束に添えられていた一枚のカードを見つけ、手の内で直ぐへし折る。それは捨てるわけにもいかず、スーツのポケットへ沈めた。
図々しい男のあまりの白々しさに呆れながら、罪のない花は水をたっぷり汲んだ花瓶へと沈めた。
新鮮な水を得たそれは優美さに艶やかさも加わって、いつまでも眺めていられるほど。
幾重もの白い花びらを縁取る濃い紫色が目を引くその花は、どこか気高さも感じられて美しい。
さっき荒木さんたちに動揺を見せずに済んだのは、メガネというアイテムのお陰だろう。
……大好きな人に通じる花を手にした瞬間、実は平常心を貫くのに必死だったのだから。
その花こと、トルコ桔梗。――この花をあえて贈るあたり、どこまでも性格が湾曲した男に思う。
やり場のない感情に、ひっそりと息を吐く。だがスーツのポケットからスマホを取り出すと、私は手早く操作する。
“お会いする理由が出来てしまいました”
簡素な文面を送信すれば、ものの5分で返ってきたメールに驚嘆させられる。
“そう?今日の19時にホテルのロビーで待ってるよ。楽しみにしてて”
ここでもレスポンスの早さを披露しなくて良いのに、と悪態をこっそりつく。
彼の軽薄さを窺わせる文面はもちろんナナメ読みで、私も素早く了承の旨を返信する。
そのあとで花瓶は、許可を貰って秘書室の窓際の棚の上に設置することが決まった。
視界の隅に入る花々にそこはかとない重圧を感じつつも、ようやく私は仕事を再開した……。