みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
「この肉は本当にウマいよ」
「はぁ、そうですか」
なんでもA5等級の葉山牛らしいのだが、今日はまったくそそられない。
――嫌いな男とこの状況で食べて、美味しい!と味わえるほど無神経じゃないんだよ。
寧ろつつましいサイズのお肉より、チェーン店の焼き肉屋でがっつり食べたい私は安上がりな女の筆頭格だ。
実にくだらない茶番だ、とワイングラスを手に赤い液体をぼんやり眺めていた刹那。
ある人物が視界の隅に入り、弾かれたように私はパッと顔を上げてしまう。
「どうかした?」
「……いえ」
正面から尋ねてきた里村社長に首を振ると、ワイングラスをテーブル上へ置く。
取り繕いの微笑も粗末なものだが。ドクンドクン、と早鐘を打つ鼓動が速まる一方では仕方ない。
「叶!会いたかったわ」
そこへ高らかな女性の声が、奥まった私たちの席まで届いた。
さすがに呼ばれた名前に見て見ぬフリも出来なくなり、私は恐る恐るその方へ目を向けることに。
視線は前方斜めあたりで止まる。――社長とこのホテルで出くわすなんて不運だ。
「……ここでは止めろ」