みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
低い声色でどうにか返し、再び視線を逸らす。その刹那、パンと手を打つ音が響いた。
ピクリと眉根を寄せて正面を見れば、笑みを浮かべながらも鋭い眼差しの里村氏と対峙する。
「そんなに怒らなくて良いじゃん」
「私はっ」
「はい、ストップ。ひとまず話は済んだし、ここからは食事を楽しもうよ」
参ったよ、と両手を上げた彼。まるで小馬鹿にしたような態度に、再び睨んでしまう。
とはいえ、あまりに身勝手なタイミングでの呆気ない幕切れには絶句もの。
それと同時に席を立って逃げる絶好のチャンスを失ったことに気づくのは、暫く経ってからのこと。
「あ、そうだ。今後も連絡が取れなかった場合は今日みたいなことがあるから、よく覚えておいてね?」
茶化したような軽快な声色での宣告に、ぞくりと戦慄が走った。
彼は大企業のトップ。つまり、有言実行を体現する人種である。それを前にして、閉口を選ぶ外なかった……。
こうして今回も脅迫まがいを仕掛けてきた相手と、高級料理なんか楽しめるわけない。
それでも負けず嫌いの底意地で、ナイフとフォークを機械的に動かしていた。
運ばれてきたセコンド・ピアット(メインディッシュ)は、綺麗に盛られた牛フィレ肉。
特製ソースと彩りの有機野菜がお肉を引き立てている、その盛りつけは素晴らしい。
「お肉好き?」と、聞かれたので渋々だが頷く私。