みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


「俺のせいだって分かってんだよ。……普通じゃないってことくらい」

「なんで……そ、んなこと言うの!?」

「え?」

「楓のバカ!……信ちゃんの決意、踏みにじんなっ!」

たとえ友人でも、口出す権利はないと分かっている。でも、最後のひと言には我慢ならなかった。


「私も信ちゃんのご両親説得する!この人たちは幸せなんだって!」

純粋に互いを想い合う2人をずっと傍で見てきた。もはや家族も同然で、ひそかに尊敬しているから。


そんな彼らの苦しみに初めて触れて、何も知らずにいた自分にふつふつと怒りがこみ上げたのだ。


「ばーか」

立ち止まって拳を強く握り締めていると、伸びてきた指先でおでこにピンッと容赦ないデコピンをされた。


「痛いよ!」

「道ばたで叫ぶな」

「信ちゃんに言いつける!」

今も微かにひりひり痛みの残るおでこを押さえ、犯人を睨みつけながら鼻息荒く言い返す私。


「だから朱祢とは、友達になれたんだよ」

「え?」

その言葉に疑問符を返せば、フッと笑い穏やかな顔をした楓にまた面食らう。


「誰より大事だって、……初めて言われたんだ。もちろん俺も同じ」

「……当たり前でしょ!」

「何でそこでキレるわけ?」

まじまじ見つめていても、いつもの調子で返してくるデカわんこに溜め息を吐いた。


「ねー、楓ぇ」

「なに、今度は真剣な顔して」

そのマイペースな声とどこまでも澄んだ眼差しに毒気を抜かれ、あっさり頬も緩んでしまう。


< 191 / 255 >

この作品をシェア

pagetop