みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
その低い声音に慄いたのはほんの一瞬。今の私に恐れるものは、もう何もなかったから。
「許せない?そんな浅はかな思いで?
もちろん私を含め、他人が他者の過去をどうこう言うのはお門違いです。違いますか?」
「叶に取り入った君が偉そうに言える立場か?」
「無論、それを承知の上でお話ししています。
これ以上、社長を通じて大好きな彼女を傷つけるおつもりなら、こちらも相応の措置を執りますので」
里村氏の言葉は容赦なく胸を痛めつける。傍から見れば、私こそ糾弾されるべきだろう。
それでも、ゆるがない思いで社長たちを守ろうと必死だった。
「……じゃあ聞こう。君に何が出来る?」
彼らしい酷薄な笑みがスマホ越しに届き、その冷たさに思わず喉がゴクンと鳴った。
「こういう言い方は嫌いだけど。
少なくとも俺は朱祢ちゃんより、社会的立場や知識経験は勝ってるよ。どうするの?」
「――では、貴方より上の者が私の後ろにいるとしたら?」
「それは?」
予想外の発言で若干の焦りを見せる彼に、今度は私が静かに弧を描いて笑う番だ。