みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
泣きやんだ私が右手を上げて頬を撫でる手を制そうすれば、今度は右手をそっと掴まれてしまった。
驚いて目を見開いた私を捉える薄墨色の双眸。暫し流れる無言の時が緊張感で包んでいく。
「……透子がいなくなって、うさを晴らすように女と遊んで、でも心に空いた穴が埋まる時はなかった。
そんな時、現れたのが朱祢だったんだ」
「……」
「まあ、俺たちの知らないとこで仕組まれてたけどな」
ズキリ、と心臓を刺すような痛みを覚える。だが、すぐにはたと気づいた。
「……俺、たちというのは」
「教えて欲しい?」と、口角を上げてニヒルに笑う彼のせいで不用意に鼓動が高ぶる。
「では、別に良いです」
「ふーん」
「わかりました。では、もったいぶらずに教えて下さい」
そっけなく答えた私を鼻で笑う男が憎らしいのに、心の奥底では愛しさも感じるから悔しい。
「親父だ」
「え?」