みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
堅苦しさに辟易しつつも、順に運ばれてきたフランス料理は美味しかった。
もちろん食事の最中、彼らの動向に気を配るのも忘れない。…特に隣のオトコには。
そしてメイン・ディッシュが目の前に置かれた。真っ白な皿の上で香り立つ、和牛ホホ肉の赤ワイン煮込みだ。
それまでマナーに苦慮していた私も、このメイン料理の艶やかさには心躍った。
カトラリーで切り入れて口へ運ぶと、赤ワインのソースとお肉のジューシーさが絡み合って、顔が綻んでしまう。
「いかがですか?」
「ええ、とても美味しいです」
その時、前方から尋ねられた私は素直に答える。率直な答えに満足したのか、専務も綺麗な微笑を浮かべた。
すると、その彼の眼差しが社長へと向く。その刹那、一瞬の目配せ後に前方の2人が静かに立ち上がった。
「では、我々はここで失礼します」
「え?」と、声を上げてしまったのは私だ。
彼らの皿を一瞥すると、メインがまだ残っており、当然デザートも来ていない。
――これはマズい。今日も粗相を仕出かしたのかと、社長を見るが知らん顔。
焦る私を余所にして、高階コーポの秘書が手に持ったリモコンを操作する。
「昼間ですが、あとはお2人で絶景とともにお楽しみ下さい」
フッと微笑した専務の発言に、今度は平常心も忘れて目を瞬かせてしまう。
すると、背後にある大きな窓のカーテンが自動で開く。その向こうには高層階から臨む、雄大な景色が広がっていた。