みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
ちなみに車中で聞いたが、この邸宅は集まりに利用するのが主だとか。主催者の名前を聞いて、さらにドン引きしていたけど。
会場へ社長と足を踏み入れると、賑やかな声と煌びやかな人の群れに圧倒される。……それはレンズ越しに視線を感じられないため。
そもそも”秘書の間宮”として赴いているのに、今の私にはメガネが欠如していた。
確かにドレスとは似合わないが、マストアイテムを失うのは大ダメージである。
「笑っていればいいよ」
「簡単に言わないで下さい」
どうやら、些細な顔色の変化を読まれたらしい。
仏頂面で返したかったが、ここは周囲の目を気にして笑みを浮かべる。
「口調も変わるし――素がね」
「…、」
口角をあげて笑うオトコを、私は周りに悟られないよう恨みがましく一瞥した。
「叶!」
その時、前方から社長を呼ぶ声が届く。そちらに目を向けると、ひと際目を引く良いオトコのお出ましだ。
対峙する彼らの元には周囲の視線が集まった。……隣で佇む私は、壁の絵になりたかったというのに。
「涼雅さん」
「よく来てくれた」
ちなみに低い声が男らしさ漂う彼は、英 涼雅(ハナブサリョウガ)氏。
この日本版・ノイシュバンシュタイン城の主ならびに、英コーポの社長である。