みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
ただ些細なものに構わず、笑顔に徹するのはもう慣れた。
周囲の賛辞を受けて育った彼らにとって、それらは至極“当たり前”なのだから。
まあ本音を覗かせると、……庶民なめるなよ、と野次を飛ばしたい気分であるのは確かだ。
「涼雅ー!」
「ああ、いま戻る」
穏やかに談笑していたところ、遠くから高らかな声に呼ばれた英社長。
「それじゃあ、楽しんでいってほしい。今日はありがとう」
「こちらこそ、ご招待ありがとうございました」
その方へ振り返って手を上げた彼は、私たちに断りを入れると去って行った。
視線を集める英氏の姿を観察していると、彼はひとりの女性の前で立ち止まった。
その女性を引き寄せた途端、唇にキスを落とす彼。……ここ、無法地帯ですか?
さすがに仕事中ともあり、他人の濃厚なキス・タイムを眺めるのも気が引ける。
そこで周囲の女性たちを窺えば、じつに羨ましそうな目を彼らに向けていた。
「……あちらは奥さまですか?」
ようやくキスを終えた英社長を睨んでいる当の女性は、息が上がり顔も真っ赤だ。
「そうそう。巨乳の奥さん」
「ひと言余分かと存じます」
私のツッコミに対し、“そう?”としれっと返してくる社長にも溜め息を吐く。