みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
カードキーを差し込み、彼の指で最上階を示すボタンが荒く押された。エレベーターが動き始めた瞬間、背を壁に押しつけられる。
ひやりとする壁の冷たさと、微かな衝撃によって私は顔をしかめた。
「んぅっ、」
その顔を両手で包むように引き上げられた刹那、無防備な唇を塞がれる。
俄かに場所を考えろと不満は生じたけど、それを紡ぐことなどとても叶わない。
ここで抵抗を見せてもムダなことは学んでいる。諦めにも似た心境で目を伏せると、私は薄く口を開いた。
チュッ、チュッ、と静かな機内で鳴り響くリップノイズは淫靡さを孕んでいた。
「ンンッ、」
それに伴って、いつしか顔から外れていた彼の手はウエスト辺りをなぞっている。
ドレスの薄い生地も相俟って、その手の動きはひどく欲情を駆り立てていく。
角度を変えながらのキスは濃度を増し、到着音が鳴るまでずっと続いた……。
長いようで僅かな密室状態は、エレベーターが停止してようやく解かれる。
その間ずっと塞がれていた唇にも開放感が訪れ、私はゆっくりと目を開く。
ホッとしたのと同時、物寂しくてつい仕掛けてきた張本人を見つめてしまう。
「その気になった?」
唇を親指で軽く拭った社長は、いやらしく口角を上げて私に尋ねてくる。
どちらかが動けば、また唇が触れてもおかしくない距離間。彼の胸を軽く押しのけると、私は無言でエレベーターを降りた。
あとに続いた彼にすぐ手首を掴まれ、今度はエレベーター外の壁に押さえつけられてしまう。