みだりな逢瀬-お仕事の刹那-


カードキーを差し込み、彼の指で最上階を示すボタンが荒く押された。エレベーターが動き始めた瞬間、背を壁に押しつけられる。


ひやりとする壁の冷たさと、微かな衝撃によって私は顔をしかめた。


「んぅっ、」

その顔を両手で包むように引き上げられた刹那、無防備な唇を塞がれる。


俄かに場所を考えろと不満は生じたけど、それを紡ぐことなどとても叶わない。


ここで抵抗を見せてもムダなことは学んでいる。諦めにも似た心境で目を伏せると、私は薄く口を開いた。


チュッ、チュッ、と静かな機内で鳴り響くリップノイズは淫靡さを孕んでいた。


「ンンッ、」

それに伴って、いつしか顔から外れていた彼の手はウエスト辺りをなぞっている。


ドレスの薄い生地も相俟って、その手の動きはひどく欲情を駆り立てていく。


角度を変えながらのキスは濃度を増し、到着音が鳴るまでずっと続いた……。


長いようで僅かな密室状態は、エレベーターが停止してようやく解かれる。


その間ずっと塞がれていた唇にも開放感が訪れ、私はゆっくりと目を開く。


ホッとしたのと同時、物寂しくてつい仕掛けてきた張本人を見つめてしまう。


「その気になった?」

唇を親指で軽く拭った社長は、いやらしく口角を上げて私に尋ねてくる。


どちらかが動けば、また唇が触れてもおかしくない距離間。彼の胸を軽く押しのけると、私は無言でエレベーターを降りた。


あとに続いた彼にすぐ手首を掴まれ、今度はエレベーター外の壁に押さえつけられてしまう。


< 94 / 255 >

この作品をシェア

pagetop