LOVELY☆ドロップ
だけど彼の握力はとても強く、逃れることはできない。
「無駄だ、ここのホテルはうちの会社が援助をしているんだ。俺が次期社長候補だということをここの連中は知っている。お前が叫んだって誰も助けにはやって来ない」
慶介の冷淡な言葉が拒絶するあたしの頭上から降りてくる。
それでもひとりくらいは、雨の中で打ちひしがれていたあたしを助けてくれた潤さんみたいに誰かが手を差し伸べてくれるかもしれない。
助けてくれる人も現れるかもしれない。
それを信じて拒絶した。
「やだっ、離してっ!!」
だけど、どんなにあたしが必死になって助けを呼んでも慶介が言うとおり、行き違う誰もかれもが珍しいものを見るような目つきで捉えるだけで助けてなんてくれなかった。
「悪いが少し出る。……彼女がへそを曲げてしまったんだよ。また少ししたら戻ってくる」
やれやれと落ち着いた雰囲気で話す慶介に、ロビーにいた従業員は安心したのかうなずいて「かしこまりました。ご気をつけて」なんて口にする。
誰もあたしを気遣う素振りなんてない。
それを実感すると、言い知れない孤独感があたしを襲った。
「いやっ、やだっ!! 離してっ!!」
それでも諦めずに抵抗を図るあたしの腕を引っ張り続ける慶介は、このホテルに来た時と同じ道順を辿り、彼の黒い車が置いている駐車場に向かった。
どこに連れて行く気なのかわからないあたしは悲鳴にも似た泣き声を漏らす。