LOVELY☆ドロップ
それでも慶介はあたしを引っ張る腕を手放さない。
それどころか、まるであたしの手首に流れる血管の血を止めるかのようにさらに強く掴んできた。
そしてとうとう車にたどり着いた慶介は、助手席にあたしを放り込み、発進させる。
その間もあたしの手首を掴む腕は離れない。
彼は器用に片手で運転をしてホテルを後にした。
……どれくらい経っただろう。
あたしの視界はすっかり涙で滲(ニジ)み、揺れていた。
抵抗する気力も時間が経つごとに削(ソ)がれていく……。
季節は夏なのに、まるで凍えるような寒さがあたしを包む中、周囲にある空気よりもそれ以上に冷たい言葉が沈黙を破った。
「降りろ」
冷徹な慶介から少しでも離れたくて、車のドアに身を寄せていたあたしの体が彼の言葉に反応した。
だけどもうこれ以上動きたくない。
あたしは微動だにせず、その場に踏みとどまる。
だけど慶介はそれを許さなかった。
掴まれた腕が一度離れたと思ったら、もたれていた車のドアが開き、慶介によってまた手首を拘束された。
車から無理矢理引きずり下ろされたあたしの目の前には、何もないただの巨大な倉庫があった。
「ここはな、近いうち会社の資産になるんだ。俺は今回、とてつもなく大きなプロジェクトに任命されたんだ。会社はお前がいた時とは違い、さらに拡大する。
そのためには俺の周りに黒い噂がたつのは御免(ゴメン)なんだ。
お前が――赤ん坊が邪魔なんだよ。頼むから俺の前から消えてくれないか?」