911の恋迷路
subject:9.11記録

9.11から今日で10日。日本に帰ってきた。アメリカのこのテロの事を夢に見る。帰りに飛行機の中でビルから逃げ出す夢を見た。アメリカでの事を記録しておこうと思い立ち、メールを書いている。テロのとき、旧ビル、北に隣接するビルから脱出して大勢の人たちとともに避難した。粉じんが酷くて幾度となくせき込み、涙が止まらない。気持ち悪くて足元もおぼつかないが、人の流れに従ってとにかく走った。とかく走る。後になってあの気持ち悪さは恐怖だったと思った。死への恐怖だ。あのとき、7ビルにいた人たちは恐怖の塊だった。何がなんだか分からないが、走った。ビルを走っておりたせいで息がひどく切れていた。だからせき込んだのかもしれない。どうでもよい、とにかく離れたくて走った。長い長い永久に続くような時間に思えた。早く外に出たかった。みんな焦っていた。苛々と時間が過ぎた。足や背中やのどが痛かった。気持ち悪かった。今思えば、いつ攻撃されるかわからない状態だったんだ。飛行機が爆弾としてビルに激突したら、俺は死んでしまう。はずかしいが、俺は俺ひとりの命のことを考えていた。仕事でアメリカに来てこんな事に巻き込まれて、俺は会社からも国からも捨てられていくんだ。毛虫が這い上がってくるときみたいだ。ぶるぶる気持ち悪い感情が身体の内側から這うように外へつたってくる。俺はそれでも前へ前へ駆け降りた。階段を駆け下りた。外は砂埃と瓦礫と廃墟だった。ビルは。でかいアメリカ、でかいビル、まったく何にもなくなっているじゃないか。その中をひとり、俺は走って逃げるしかなかった。国も会社もだれも助けてやくれない。俺はひとりで走り続け…
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