911の恋迷路


 慎も立ち上がる。

 するとコーヒーカップが傾いて、慎は反射的にカップを押さえる。

 慎はテーブルに乗り出すような姿勢になってしまった。


 

 「うわ、スーツが……」

 背広の襟にコーヒーがダラダラとこぼれている。スマートな光景ではない。


 
 「しみになっちゃう」
 
 ハンカチを手に、心配する果歩に、慎がそっとささやいた。


 「こっちより、花井さんの顔、酷(ヒド)いかも…」


 

 「!!!」


 果歩にとっては一大事。

 バックからあわててミラーを取り出し覗き込む果歩。


 
 慎はスーツの襟をお手拭きで拭いながら、苦笑いをした。


 「お互いに困った状態」


 ミラーで見ると果歩のアイメイクはボロボロだった。

 上まつげのマスカラが取れて、目の下にベタリと付いている。

 つけまつげも散々であちこちへばりついている有様。目の下に隈(クマ)が出来ているし。

 あ~あ。

「パンダ目…最悪……」
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