911の恋迷路

 「今日はふたりは電車でしたっけ?」

 稔は果歩の方を向いて話す。
 

 慎と稔が打ち解けるまでに、時間が掛かるだろう。

 

 「うん、そうなの。品川駅で待ち合わせて、ね」

 慎に同意を求めたが、
 食べるのに集中している振りをされる。

 

 「それにしても、なんでまた品川なんだ?」

 稔の突っかかるような言葉にも、ずいぶん慣れて来た。

 先日、共に食事をして話しているうちに、
 打ち解けてきたものがある。
 
 絆まではいかないけれど、
 
 少しずつ自分をありのまま見せるくらいの信頼が育ちつつある。

 「便利屋やってるから、新幹線の接続のいい品川に会社がある、
  それだけ」

 麺をすする音の合間に、

 慎のぼそぼそという低い声が聞こえた。

 

 「親父の会社かと思っててさ。
  お前、ずいぶん親父に好かれていたから」

 「昔の話だよ。そう変わんないよ」

 幼い頃、可愛い時だけだよ。

 慎の冷めた言葉に、

 少し稔の顔がほころんだのを果歩は見逃さなかった。
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