911の恋迷路
 
 昼食を終えて、
 皆でコーヒーを飲む。

 「今日はなんてお母さんに言ったの?」

 「友達とDVD鑑賞」

 ソファに座り眠そうに眼を細めている陵。
 並んで雑誌を読んでいる慎。

 その様子を眺める果歩に、
 
 稔が静かに話す。

 「感謝しています」

 コーヒーカップを置いて、果歩は姿勢を正した。

 「けど無理しないでください。陵兄の事、大丈夫です」

 うん。

 果歩は頷く。

 「好きだから逢いに来ているんです」

 


 陵が居なくなり、

 幸せな時間なんて続かないと
 何時も恐れていた。

 自ら安らぎに飢えていて、

 心が病んでしまっていた。

 今、迷路の中にまだ居るとしても、果歩は前進している。
 出口を捜している。

 迷路の壁を伝って、ただ進んでいくだけ。

 
 一緒に迷路を歩む人が居てくれる。

 「心強いんです」

 
 果歩は稔の目を見て話す。
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