911の恋迷路
スマホの地図を見ながら、慎は歩いていく。
「『ラリオン』まで、GPS使って来たんです」
「『ラリオン』のこと、陵くん、話してなかったの?」
果歩は小走りで慎についていく。慎は歩くのが速い。
「聞いてないです」
しかも慎の息は少しも乱れていない。
「兄が行方不明になったとき、小学生だったんで」
(慎さんって、わ、若い……)
「僕、家にいるときの兄しか知らないんですよ」
慎は淡々と話しながら歩いていく。
「家って、実家?」
果歩は陵の実家には行ったことがなかった。
「そう。兄は働いていたから、たまに帰ってきたとき話すくらいだったかな」
(そうなんだ……)
確かに、陵くん何時も忙しそうだったな。
果歩は急いで慎に歩調を合わせながら尋ねる。
「で、私のメールアドレス、どうして知ったの?」
今になって果歩にメールを出したことが不思議だった。