911の恋迷路


 慎はカバンから何かを取り出し果歩に手渡す。

 
 受け取ったものは果歩に見覚えのある、古い機種の携帯電話だ。


 「これって……陵くんの」
 
 「そう。兄の携帯。まだ電源入るし普通にメール出来るんですよ」

 
 果歩は息を切らして慎と歩調を合わせつつ、呼びかける。


 「ねえ!」

 
 慎が果歩の声に振り返る。

 


 「でも、何故、今になってメールをくれたの?」



 「面白そうだったから」



 (は?)

 

 淡々とした慎の答え。抑揚のない、当たり前だろ?というような声。

 慎は果歩の方を見ようともしない。

 今度は時刻表を再度、確認したようで、溜め息さえついている。


 「あああ~、18時までに会社に帰るんは、無理か」


 (こいつは……)

 果歩は無性に腹が立ってきた。ふつふつと怒りのエネルギーが発生する。


 (面白そう、だと?)
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