マスカレード【仮面de企画】
「ちゆ様?」

僕は唖然としながら彼女の名を口にした。

「なぜこんな所へ?」


ちゆ様は、僕の一族の氏神――祖先でもある――竜城神社の龍神の妹姫だ。いわば、竜宮城の乙姫様と言ったところだろうか。

今までに彼女の姿を見たのは、五歳と十五歳の時の誕生日、それと僕が家督を継いだ時だけだ。
それも全て、神社の神前で。

それが、こんないかにも俗世間的な場所でお目にかかろうとは!


「面白そうだからに決まっておる。仮面をつけるのならば妾(わらわ)でも出られよう?」

「どこでこの夜会の事をお聞きになったのですか?」

「そなたの姫に。あの娘ときたら始終龍に話しかけておるな。おかげで全て妾に筒抜けじゃ」


ちゆ様が言う『龍』とは、うちの裏庭にいる翼のある爬虫類の事だ。
昔から龍神の使いと言われている。


「そなたの姫が何を言うたか知りたいかえ?」


「いいえ」

僕は首を横に振った。

「自分で突き止めます」


「では、このような所におるのはやめてはどうじゃ? ほら、また別の男が近付いた」

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