スピリット・オヴ・サマー
 都会の暮らしで久しく忘れていた言葉。それを呼び戻そうとしたが、憲治の口から方言は出てこなかった。いや、話せなかった。方言同士の会話に宿る言葉の体温に、今の憲治は微かな抵抗を感じていたのだ。むしろ、都会人が互いに取り合う、洗練された、体温を感じないほどの適度な距離に慣らされていた憲治にとって、方言の持つ距離感の無さはある意味不自然にも思えたほどだった。
「3時だべ、プール閉めるの。先生にごしゃがれるど(叱られるよ)。」
「んーだ、…そうっ、そうだそうだ。」
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