スピリット・オヴ・サマー
 聖菜がさっと顔を上げた。その顔を、憲治は両手で押さえつけた。そして、あの日、第2音楽室でしたように、聖菜の唇を自分のそれで塞いだ。そして聖菜の背中に手を回して抱きしめる。
「んっ…、」
 聖菜はほんの少し抵抗したが、憲治が一層強く抱きしめると身体中の力が抜けたように憲治に身を委ねた。
 一瞬の出来事だった。実際の所、憲治の頭の中も空白になっていた。ただ、8年前の悔いを果たすには、あの幻の中で交わしたくちづけを本当のものにするしかないことを知っていた。ただそれだけだった。
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