森林浴―或る弟の手記―




戦争さえ終われば、日本が勝てば元の生活に戻れる。


そう思っていたからこそ、我慢も出来たのでしょう。


時折、母から手紙が届きました。


香保里姉さんからは一度もなく、ですが、佐保里姉さんからはこまめに手紙は届きました。


内容は特別ありませんでしたが、いつも私の身体の心配をしてくれていました。


寒くないか、食事はきちんと摂れているか。


寂しくないか、友達は出来たか。


いつもそんなことが並べられていました。


私は綺麗な手紙に、疎開先にある汚い紙で返事を書くのは気が引けてしまい、たまにしか返事を出しませんでした。


それでも佐保里姉さんは返事を催促することもなく、手紙だけを寄越しました。


その頃から、少しずつ疑問は膨らんでいたのです。


佐保里姉さんは、本当は普通の女性ではないのか、と。


確かに、滅多に家を出ない、庭師の男と関係を持ち、そのうえに妊娠。


そして、中身がないような素振り。


それらだけ見れば、とても普通ではありません。


ですが、こうして弟の安否や身体を心配して手紙を書くあたりは、どう見ても普通の女性です。


私は優しかった佐保里姉さんの笑顔を思い出しながらだったから、疎開先でもやっていけたのかもしれません。




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