森林浴―或る弟の手記―




疎開して一年近くが経った頃、嬉しい報せが飛び込みました。


佐保里姉さんに赤ん坊が出来たというものです。


それを私は、佐保里姉さんからの手紙で知りました。


佐保里姉さんの報せる字も、心無しか躍っているように思えました。


あれ程までに産みたいと叫んでいた佐保里姉さんです。


妊娠の事実は嬉しかったに違いありません。


その頃から、佐保里姉さんの手紙には近況が書かれるようになりました。


佐保里姉さんの手紙には、嫁ぎ先の速水家は大層優しい家族のようで、心が安らぐ、と書かれていました。


旦那様も妊娠を喜んでくれていて、流産しては危ないと、このところ店を手伝ってもいない、とも書かれていました。


佐保里姉さんが幸せそうで、私は安心しました。


嘉一さん例え一緒になれずとも、佐保里姉さんが幸せなら、それに越したことはありません。


私は早く、佐保里姉さんの子供をこの手で抱きたいと思いました。


ですが、戦争はどんどん酷くなっていき、佐保里姉さんに会いに行くことも出来ないまま、時は経ちました。


それでも、佐保里姉さんは手紙をくれ続けたのです。




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