失恋レクイエム ～この思いにさよならを～

――鬼の前田が結婚する。

その話がわたしの耳に入ったのはわたしたちが別れてから３週間後の事だった。

「なんでもさ、Ｋ大の教授の娘らしいじゃん。それってカンペキ出世街道ってことでしょー？さすが鬼の前田、腹黒ーい」

結衣が速報！と意気込んで持ってきたのはそんなくだらない話。

わたしが彼、前田貴史と付き合っていたことは誰にも言っていないから仕方ない。
いくら講師といえど、その講義を受けている生徒である以上バレたら問題だから、誰にも言わなかった。

だから、言えなかった。

もちろん先生と付き合ってた時だって順風満帆な事ばかりじゃない。
友達に聞いて欲しい話だって沢山あった。
他の友達と一緒に恋バナで盛り上がりたかった。

それでも黙っていたのは、彼との関係を終わらせたくなかったからなのに…。

こんな形で終わってしまうなんて…。

「しかも、その教授の娘がまた美人だって噂も聞いたぞ俺」

和也が結衣の興奮に乗るように言った。

そんな情報マジでいらないし。

「えっうそー!?まぁ前田も見てくれだけは良いからねー。今まで浮いた話の
１つもなかったのが不思議なくらいだもん」