失恋レクイエム ~この思いにさよならを~

飲み会なんて久しぶりでまぁ楽しく飲めたけど、いまいちしっくりこない気がする。楽しいには楽しい。けど、自ら参加したい程でもない。たまには、って感じ。

「あの、いつまで腕組んでるんですか」

 店を出てからどさくさに紛れて絡められた腕は一向に離れる気配がない。

「いいじゃない、減るもんじゃないんだし」
「いや、そういう問題じゃ」
「じゃぁどういう問題?彼女いるの?」
「いませんけど」

即答する俺に彼女は「なら問題ないじゃない」といっそう俺に身体を預けてきた。歩きにくいんだよなぁ。けどどうせ駅までだ、と俺はそれ以上何も言わないでおく。

「あ、ねぇ、もう一軒行かない?」
「行きません」
「つれないなぁ。飲み足りなーい」

なんか、この人キャラが崩れてきてる…。

「まだ飲んでれば良かったじゃないですか」
「じゃぁ一発どう?」

 一発って…。ますますこの人が掴めない。

「谷津さん、そんな自分を安売りしちゃいけませんよ」
「…やだーつまんない男」

俺の知ったことではない。

とにかく、早くこの女と別れて家に帰ってから時森さんに電話をする。俺はそう決めてるんだ。これ以上付き合ってられない。
って、思ったのに。

「えっ、羽賀くんご近所さんじゃない!私そこの2丁目よ」

くそ、俺ってツイてねぇ…。
これってやっぱ送っていかなきゃ…だよなぁ。
もう時間も遅いし、暗いし…一応女性だし。はぁ…気が重い。

最寄の駅で二人で降りていつもの帰り道を歩く。

さっきからキャラが崩れまくってる谷津さんは、気兼ねしなくて良くて楽っちゃー楽で、笑いもでたりと男友達と話してるみたいだった。

「でね、その客ってば、思っていたのと違う!訴えてやるー!って言って、本当に訴えやがったのよ、うちの会社相手に。信じらんない!世の中色んな人がいるのよねぇ」

谷津さんの話に適当に相槌を打っていたら、少し前方に人影が見えた。なんで気になったかというと、その人が立って見つめている先は俺のアパートだったからだ。そして挙動も怪しい。そわそわしてる。

「羽賀くん!聞いてんの!?」

谷津さんの大声に弾かれたように振り向いた人影。

「…え、時森さん…?」
心臓の底がヒヤッとした。

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