失恋レクイエム ~この思いにさよならを~

 そこには〈さっきはありがとうございました。助かりました。私はこのまま帰るので、羽賀さんは飲み会楽しんでください。〉と書かれていた。

 彼女のことだから、きっと気を使ったんだろうなぁ、と思う気持ちが半分と、先に帰るなんて酷いじゃないか、と思う両方の気持ちが沸き上がってきた。
 俺は、急いで席に戻ると「ごめん!急用ができたから帰るわ!この埋め合わせはまた今度するから!」とだけ早口に言い、1万円札をテーブルにたたきるけるように置いて。

「ちょっと!待ちなさいよ羽賀!」

 怒る河辺の声を振り切って店を出ると、時森さんに電話をかけながら駅の方へ足を進める。そんなに遠くへは行っていないはず。小走りに辺りを探しながら行くと、駅へと続く交差点の歩道橋の上に時森さんの姿を発見した。

「時森さん!」

 呼ばれてやっと俺に気づいた時森さんは、足を止めて振り返る。驚いた顔で見上げる顔は、少し困っている様にも見て取れた。

「あの、メッセージで送ったんですけど・・・」
「読んだよ」
「じゃぁ、どうして・・・羽賀さんも飲み会途中でしたよね?」
「そうだけど、まぁ、俺のは同期のだから大丈夫。あ、ごめん、もしかして迷惑だった?」

 俺の質問に時森さんは、黙り込んでしまう。
 もしかして、本当に迷惑だったのか・・・、と追いかけてきてしまったことに後悔の念が押し寄せる。考えてみれば、確かにそうかもしれない。俺は、時森さんの彼氏でもなんでもないのに、口説かれているところを邪魔してしまったのだ。

「ご、ごめん、俺何も考えてなかった」
「違うんです!迷惑なんかじゃないです。迷惑かけてばかりなのは、私の方で…」
「俺は別に迷惑なんて思ったこと一度もないけど」
「羽賀さんは、誰にでも優しくしすぎなんです」
「そんなことは…」
「羽賀さん、私この前先生とちゃんとお別れしてきたんです。そしたら、少し・・・ほんの少しだけど、気持ちが軽くなりました。―――だから」

 時森さんは真っすぐに俺を見つめると笑顔を浮かべた。


「もう、私のことは気にしなくて大丈夫です。本当に、もう大丈夫ですから」


 彼女は確かに笑っているのに、なぜか俺には泣いているようにも見えた。何も言えないでいる俺に一礼して時森さんは行ってしまった。

 追いかければ良い。迷惑なんかじゃない、気にしないでなんてそんなさみしいこと言うなと追いかければ良いのに、足が動かなかった。


 ただ、彼女の後姿を見つめていることしかできなかった。


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