Silver Forest
「すごい……魔法なの?」

目を丸くする私を見て、ラジールは少し笑ったようだった。
いつもの、どこか寂しげな微笑みや、大臣たちに見せる口元だけの作り笑いとは違う。めったに見られない、彼の本当の笑顔だ。

私は胸がキュンとなり、もっと見たいと思った。けれどそれもつかの間、彼はすぐに背を向けて中へ入って行ってしまった。

しかたなく、私も後に続く。私が通り過ぎると、扉はまた勝手に動いてピタリと閉まった。やっぱり、魔法としか思えない。

頭の片隅でそう思いながら、けれど目の前の光景に驚いて、私はそれどころではなくなっていた。部屋は見たこともない、丸い形をしていた。そして円形の床と天上の、それぞれ真ん中に、大きな丸い穴が空いている。この部屋の床と呼べるものは、その穴の周りをぐるりと一周する、人ひとりが通れるほどの幅の、通路だけだった。

ラジールはすでに通路を歩き出していたので、慌てて後を追う。ちょうど円を半周した辺りに、入ってきた扉と同じような扉があった。ラジールはやはり手をかざして、扉を開けた。

中は普通の広さ……つまり、私の部屋の寝室くらいの大きさだった。天上までびっしり本が詰まった壁があり、テーブルの上には、見たこともない道具の数々が並んでいる。ガラス製の小瓶や、きちんと積み重ねられたノートや、ペン立ても置いてあった。

キョロキョロと部屋の中を見回している私に、ラジールが部屋の隅から呼びかけた。
「姫、こちらへ……」
行ってみると、彼は大きな箱形のチェストの蓋を開けてその中を指し示した。

「ここに保存食と、飲み水があります。あまり美味しくはないでしょうが、飢えと乾きを癒すためには必要十分なはずです。……姫、」

そう言ったきり、ラジールは黙って私の顔を見つめた。彼の瞳はやっぱり、綺麗な黒水晶のようだ。でもその瞳の中の何かが、私を怯えさせた。ふいに、先ほど感じた彼に対する恐怖のようなものが、心の中に蘇ってくる。

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