彼と彼女と彼の事情
「奈緒、何してんの〜?
桜の木に、何か話し掛けてたりして?」



クスッと笑いながら、千尋が近付いてきた。



「えっ?…な、わけないじゃん!桜が咲いてるなぁ、と思っただけだよ!」



「いいよ、そんなにムキにならなくても!」



心地よい春の風が、二人を包む。 



「そうそう、これ!来る途中、浅草の『小桜』で買ってきたんだけど、これでいいかな?」



「いい、いい!ありがとう!」


浅草に店を構える『小桜』は、江戸時代から続く老舗のかりんとう屋さん。



桜の花をモチーフにした、上品なピンク色の包装紙や紙袋が人気のお店だ。 



もちろん、味も文句なし! 


この店を教えてくれたのは、他でもない、林先生だった。 


甘党の林先生がお薦めするお店で、今日の手土産にと、数日前から二人で決めていた。 



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