彼と彼女と彼の事情
同じように、私の隣で行き交う電車に目をやる郁人。
漸く、落ち着きを取り戻した私は、そっと郁人に言葉を投げかけた。
「ねぇ……聞いてくれる?」
「うん」
「今日ね……私、見ちゃったんだ」
「何を?」
「隼人とその婚約者。ビックリしちゃった……」
「そっか」
「すごくショックだったんだけどさ。
これって、もう諦めろって、神様が言ってるのかな?
あんな二人を見たら、もう本当に手が届かない人になったみたいで……」