彼と彼女と彼の事情
「でもね……。
隼人、私のこと、今でも忘れられないって言ったんだよ。なのに、なのにさ…なんでなのかな…私は……」
涙で、上手く話せない。
――と、
突然、郁人の胸の中に引き寄せられた。
ドクンドクン……
郁人から聞こえる心臓の音。
「……離して」
さらに、強められた郁人の腕。
「奈緒……俺じゃ、俺じゃダメか?……俺が兄貴の代わりになるから」
心なしか、郁人の声が震えてる。
そんな気がした。