彼と彼女と彼の事情
ドレッサーの前に座り込んだ私は、デートでも行くかのように念入りに化粧をし、ホットカーラーで髪を巻き始めた。


くるんと、カールした部分を指先で解しながら鏡の前でスタイリングを整える。
 

準備完了! 



あとは、郁人を待つばかり。 


壁に掛けられた時計を確認すると、電話を切ってからちょうど1時間が経過していた。


「もうすぐかな……」


一人呟き、ベランダから階下を覗いたり、部屋の中を行ったり来たりと繰り返した。


――が、なかなか郁人は、現われない。 


「あれ、おかしいなぁ」


時計と携帯とを交互に見つめるけれど、何の変化もない。 



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