彼と彼女と彼の事情
抱き締められた隙間から隼人を覗き込むように見上げると、目が合った――。 

半年前と変わらぬ優しさを秘めたその瞳に、吸い込まれそうだった。 


「奈緒……」


「隼人……」


ほぼ、同時だった。 


こんな場面で不謹慎だけど、胸がドキドキした。


相変わらず、降り続ける雨の音に、二人の声は瞬く間に掻き消されていった。


雨の音以外、この部屋には音を奏でるものはなかった。



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