ワイルドで行こう
「あのさ。本当は煙草なんて吸わないんだろ」
 また驚くことを言い当てられ、琴子は目を丸くして彼を見返した。
「煙草吸っているやつって、どんなに香水振っている女でも分かるんだよ。姉さん、そんな匂いしなかった」
 喫煙家の鼻なのだろうか。それとも、鼻が利く人? それなら徹夜明けで風呂も入れなかった汗くさい女だって逆に思ったんじゃ……?
「でも昨夜の私すっごいぼさぼさで、徹夜明けだったからすっごい汗くさかったかも……」
 初対面があんなボサ女なんて最悪だろうから、笑って誤魔化した。
 だけど……。また彼が、優しい目尻のしわを滲ませながら、ふっと微笑んだ。
「昨夜、雨上がりでムッとした空気の中、アンタから女の匂い、スッゲー匂ってきてた」
 へ? あの汗くさいのが女の匂い? 琴子は唖然とする。まったく例えが分からない。
「仕事やりきって、やりつくしてへとへとになって力尽きる前の女ってさあ。色っぽいんだよな。昨夜の姉さん、それだったわけ」
 え、え、なにいってんの? このお兄さん?? 面識ない男性に『色っぽい』なんて言われて、琴子はびっくり飛び上がりそうになる。
「汗まみれでやりつくした女の匂いってさ。甘酸っぱい身体の匂いの中に、今にも消えそうな香水の残り香がまざってんの。俺、久しぶりにそういう女の匂いに出会ったわけ」
 えー、なにそれ。っていうか。このお兄さん。『けっこう女慣れしている?』。琴子は仰天した。彼がそう見えなかったとかではなく、そんなことを言う男に初めて出会ったからだった。しかもすっごい動物的で刺激的な例えを平気な顔で言ってくれたので、頭が熱くぼうっと沸騰しそうだった。だってもう頬も熱い。きっと顔も赤いと思う!
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