ワイルドで行こう

 たまにしか会わない同級生にそんな顔をするはずない。やっぱり婚約者だって……、確信する。
「ありがとうございました。またご一緒にいらしてくださいね」
 行きつけショップの彼女が店先で見送ってくれる。
 大きなショップバッグは英児が持ってくれる。徐々に混んできたフロアを二人で歩く。やはりいつもの英児ではなかった。琴子が『寂しそう』と感じる時の遠い眼差しで、ぼんやりと歩いている。
 だけど。そっとしておこうと黙ってついていると、英児がやっと笑顔で琴子に振り返った。
「騙せないよな。琴子には」
 隠すことなどなにもない。そんな迷いを振り払った笑顔。琴子はそれだけでほっとできた。
「あの人なのね。すぐにわかった。同級生は嘘なの?」
 気後れした笑顔で、英児がうつむく。彼らしくない様子をみせるので、琴子の心も軋む。それでも英児は琴子に告げた。
「ここ、あいつの職場だから。元婚約者だなんて言えないだろ。それに同級生は本当の話。つっても学校が同じだったとかそんなんじゃなくて、ただの『同い年』。俺と同じ三十六歳な」
 三十六歳――。琴子の中で、訳のわからない『ずっしり』とした重苦しいものを感じ取る。
「海藤って……彼女の……」
 ストレートには聞けなくて口ごもっていると、英児からきっぱり答えてくれる。
「ああ。結婚していないみたいだな。姓が変わっていないから」
 三十六歳、独身のキャリアウーマン。つまり、別れた二人は未だ『お互いに』独身ということ――。

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