ワイルドで行こう
「やっぱり、作業着の貴方が格好いい。龍星轟のジャケット姿が一番似合っている――と、思ったの」
きっと母に挨拶をすることも意識して、きちんとネクタイを締めてきてくれたのだろう。でも本当にそう思ったのだ。
すると英児がとっても嬉しそうに笑った。
「ありがとな、琴子。本当の俺を想ってくれて」
今度は柔らかに胸元に深く抱きしめられる。
国道の車が通る道端だけれど、今度は琴子もネクタイの胸元に頬を埋めた。
目をつむれば、同じ匂い。紺色の作業着と同じ匂い。スーツでも作業着でも変わらない。この人の匂いを確かめて、琴子はもう一度『お帰りなさい』と英児を抱き返した。
「母が待っているの。こんなところにわざわざ呼び出して、どうかしたの?」
尋ねると、急に英児が真顔になって姿勢を正した。その顔で琴子をじっと見下ろしているから、琴子も途端に緊張する。その顔が言おうとしていることが判って。
「いや。お母さんに挨拶する前に、琴子に言っておきたいことがあって」
「言っておきたいこと?」
『結婚してください』なんて。今更、改めて言ってくれるのだろうか? 英児の顔が急に真顔になったので、琴子も背筋が伸びてしまう。
英児が咳払いをして、ゼットのルーフを撫でた。
「これ、もらってほしいんだ」
え? なにを?
琴子は首をかしげた。でも英児がさらにゼットのルーフをぽんと叩いた。
「俺の女房になる記念に、こいつをもらってほしいんだ。結婚指輪……みたいなもんだよ」
また英児がゼットのルーフをぽんと叩く。
「え! ゼットを、私に……?」
驚きで固まる琴子に、さらに英児が付け加えた。
「条件があって。これを譲る時の名義変更は『滝田琴子』じゃないとダメなんだ」
嘘……。琴子は固まった。
黙ってしまった琴子に気がついた英児が慌てた。
「あ、その。指輪は東京にいる間に見つけて注文したんだ。届くまでまだ時間がかかるってさ。うわ、俺、馬鹿だな。そうだよな、車なんかより、指輪が先……」
「嬉しい!」
言い分ける英児に、今度は琴子が迷わず抱きついた。