ワイルドで行こう
すぐそこの煙草屋。店主がお爺ちゃんになってしまい、営業時間も短く開いている方が珍しい。もう自販機しか管理していない古い煙草屋。彼と出会った場所。
秋色のワンピース、裾の刺繍レエスが国道を通りすがる車と風に揺らされる。徒歩で五分ほど。煙草屋、自販機の前に銀色のフェアレディZを見つける。
日曜の柔らかい日射しにキラリと光るその車の運転席から、スーツ姿の男が降りてきて琴子は立ち止まる。
グレーのスーツに、爽やかなブルーのワイシャツ。そして紺色のネクタイ。きちんと整えた黒髪。爽やかな出で立ちの男性がそこにいる。
え、誰?
判っているけど、琴子は目を見張った。
「琴子、ただいま」
笑った顔まで爽やかで、琴子は茫然とした。
「ん? 琴子?」
やっと会えたのに、すぐに駆け寄ってこない彼女を見て眉をひそめている。その眉間に寄ったしわをみて、琴子は笑う。その顔は確かに、作業着の兄貴だったから。
「お帰りなさい!」
駆け寄ると、向こうから辿り着いた琴子を迷わずネクタイの胸元に抱きしめてくれた。人目も憚らずに腕いっぱいに。
「やだ。車がたくさん通っているってば……」
「知るか。帰ってきて一直線に来たんだ。ずっとこうしたかったんだ」
半月も触れなかったのは辛かったんだと、耳元で囁かれる。
「すぐにお前を――」
「――すぐに裸にはなりません」
彼がいつもふざけて言うことを、琴子から言ってやる。英児が驚いて琴子を胸から離した。
「そんなこと思ってねえよ」
「嘘、嘘。この手がここを触ったら、絶対に言うじゃない」
琴子は胸のふくらみを指さした。そこには既に英児の大きな手がふくらみを包み込んでいる。
彼が『ちぇ』と言いながら手を離した。
「どうしたの。そんなかしこまってくるだなんて」
初めて見たスーツ姿。もちろん、格好良いのだけれど……。物珍しそうに眺める琴子を知って、英児も途端に照れくさそうにジャケットの襟を直す。
「俺だって東京で他の業者と会う時はきちんとスーツで行くよ。ほんとにとにかくすっ飛んできたんだよ」
「嬉しいけど、格好いいけど……」
不思議だった。格好いいと思うけれど、車を磨いている彼を見た時ほどのときめきがない。だから琴子は言った。