ワイルドで行こう
すると隣の彼が、ついていた車のライトを切った。さらに辺りが暗くなる。その途端――。
車の前を、黄緑色の沢山の光がすーいすいと夜空に舞っていた。
「ほたる?」
「そうだよ、螢だよ!」
暗くなると次から次へと四方八方から、淡く小さな灯火が集まってくる。
本当に沢山。まるでここへ来た自分たちを迎え入れてくれるかのように、優しい光が黒い車を取り囲んだ。
運転席で彼も穏やかな微笑みを浮かべ、暫し黙って眺めている。
「この時期、ほんの十日だけなんですよ。これが見られるのは。今夜は俺もこれを見ようと思って、早めの夕飯を取って走ろうと思っていたんで」
だから特別に、予定を変更した訳じゃない。またそうして、こちらの母娘が気遣わないようにしてくれている? でも彼が言うと自然に聞こえる。
「いつもこうして走っているのかしら」
琴子も聞いてみた。すると、彼がにっこり。
「そう。走れるところまで走るのが俺の好きなことだから。この季節ならここって場所をその時期に見に行くのがまた楽しみ」
「いいですね。そういうの」
思わず琴子も賛同していた。そうでなければ、こんな素敵な光景には今夜出会えなかったはずだから。
「今でもこんなに蛍が出る河原があったのねえ」
母も感慨深げに、暗がりを舞う幻想的な光をずっとずっと眺めている。その表情は既にリラックスしているいつもの母の顔だった。
そのうちに、彼が静かに運転席を降りてしまう。どこに行くのかと眺めていると、彼は母側のドアを開けた。
「外に出てみませんか。もっと遠くまで空まで見られますよ」
いつもならここで人の手を借りることで、母は『でも』と躊躇う。しかしそれも察していたかのようにして、彼が母の手と肩をぐっと持ち上げ、優しい介抱をしてくれていた。
「せっかくだから、そうしようかしら」
そして母も。ここまでされたら嫌なんて言えなかったのだろう。いや……琴子同様『この彼なら』と思って、心を許してしまっているように見えた。
しかも彼は手慣れていて、杖も持ち、そして母を側にある公園ベンチへと連れて行ってくれる。
母が彼を頼ってベンチに座ったところで、茫然としていた琴子もやっと我に返って助手席から外へと出た。
車の前を、黄緑色の沢山の光がすーいすいと夜空に舞っていた。
「ほたる?」
「そうだよ、螢だよ!」
暗くなると次から次へと四方八方から、淡く小さな灯火が集まってくる。
本当に沢山。まるでここへ来た自分たちを迎え入れてくれるかのように、優しい光が黒い車を取り囲んだ。
運転席で彼も穏やかな微笑みを浮かべ、暫し黙って眺めている。
「この時期、ほんの十日だけなんですよ。これが見られるのは。今夜は俺もこれを見ようと思って、早めの夕飯を取って走ろうと思っていたんで」
だから特別に、予定を変更した訳じゃない。またそうして、こちらの母娘が気遣わないようにしてくれている? でも彼が言うと自然に聞こえる。
「いつもこうして走っているのかしら」
琴子も聞いてみた。すると、彼がにっこり。
「そう。走れるところまで走るのが俺の好きなことだから。この季節ならここって場所をその時期に見に行くのがまた楽しみ」
「いいですね。そういうの」
思わず琴子も賛同していた。そうでなければ、こんな素敵な光景には今夜出会えなかったはずだから。
「今でもこんなに蛍が出る河原があったのねえ」
母も感慨深げに、暗がりを舞う幻想的な光をずっとずっと眺めている。その表情は既にリラックスしているいつもの母の顔だった。
そのうちに、彼が静かに運転席を降りてしまう。どこに行くのかと眺めていると、彼は母側のドアを開けた。
「外に出てみませんか。もっと遠くまで空まで見られますよ」
いつもならここで人の手を借りることで、母は『でも』と躊躇う。しかしそれも察していたかのようにして、彼が母の手と肩をぐっと持ち上げ、優しい介抱をしてくれていた。
「せっかくだから、そうしようかしら」
そして母も。ここまでされたら嫌なんて言えなかったのだろう。いや……琴子同様『この彼なら』と思って、心を許してしまっているように見えた。
しかも彼は手慣れていて、杖も持ち、そして母を側にある公園ベンチへと連れて行ってくれる。
母が彼を頼ってベンチに座ったところで、茫然としていた琴子もやっと我に返って助手席から外へと出た。